〝主人の居ない日産キューブ〟は半夜過ぎに旧Iトンネルに到着した。
戦慄と言う言葉は相応しいのか、道中で購入したファミチキを食べていた3人の手が止まった。
トンネルの入り口は茂みに覆われており、雨上がりで霧が深く、心霊スポットマニア達にとっては最高のシチュエーションだったであろう。
他方、我々はじっとりした汗を流し、このまま進むべきか判断に迷いが生じた。
改めて車内の人の配置を整理しよう。
運転手は私、助手席にO氏、後部座席にS氏が座っていた。
O氏の学生時代のあだ名はドグウ。
当時、彼はタータンの芝生に設置されている強烈な水圧のスプリンクラーに向かって、陸上部員によるかけ声「ドッドッドグウ、ドドドグウ」に応じ、奇妙なダンスをしながら近づいた。
顔面に水鉄砲が直撃し、一瞬梅干しのような目になったのだ。
水しぶきから生還し、小麦色に焼けた肌とイカリ型のシルエット、梅干しの目をした彼は正にドグウ。
トンネル入り口より50m程進んだ所で私はドグウに対して運転を交代するよう伝えた。
彼が助手席より降りて左ドアを閉めた瞬間、私はアクセルを限界まで踏み込んだ。
例え直列4気筒1.4Lのエンジンだったとしても私は確実にトラクションを感じた。
ぐんぐんトンネルを進み、出口付近の照度からすると恐らくトンネル全長の半分くらいまで到達したであろう。
私は後部座席のSに強く肩を叩かれ、キューブは停車した。
バックガラス越しにドグウを現認したが、そこにはイカリ型のシルエットはなかった。
つづく
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